EVの意味とは?HV・PHV・FCVとの違いも解説

EVの意味とは?HV・PHV・FCVとの違いも解説

EVとはElectric Vehicleの略称です。直訳すると電気自動車ですが、BEV(バッテリ式電気自動車)と表すケースも見られます。EVはHV(ハイブリッド自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)、FCV(燃料電池自動車)と同様に、国が定めたエコカー4車種のひとつです。わが国だけなく、地球温暖化の原因のひとつである温室効果ガス(CO2)の排出を抑制して、カーボンニュートラルの実現に貢献すると期待されています。ここでは、環境に優しい自動車として、世界的に注目を集めているEVについて詳しく解説をします。

エコカーの種類と特徴 

EVはBEVとも表記されますが、ハイブリッド自動車と燃料電池自動車は電気を動力源とするモータを使用するところから、electricのEを加えHEV、PHEV、FCEVと表すケースも見られます。なお、ここではEV、HV、PHV、FCVと表記します。それぞれの自動車の特徴は次の通りです。

出典:資源エネルギー庁

カーボンニュートラルに貢献するEVとFCV

エコカーのHV、PHVは、共にガソリンエンジン(内燃機関)を搭載しています。石油系燃料を使用するため、ガソリン車より環境負荷は小さいものの、温室効果ガス排出源のひとつとなります。一方、EVとFCVはそれぞれ電気と水素を動力源として使用するので、石油系燃料を必要としません。そのため走行時においては温室効果ガスの発生が無く、カーボンニュートラルと同時に省資源にも貢献します。ディーゼルエンジンのハイブリッド自動車もありますが、限られた車種しかないのでここでの解説では割愛します。

EVはとてもシンプルな構造の自動車 

EVの基本装備は、バッテリーとモータです。HVやPHVのようなエンジン、FCVの水素タンクという装備がなく、シンプルな基本構造となります。

  1. EV:エンジンを搭載しておらず、車載バッテリーでモータ走行します。
  2. HV:エンジンとモータを搭載、エンジンで発電してモータで走行します。HVにはエンジンを切ってもモータ(電力)だけで走行が可能なストロングハイブリッドと、エネルギー消費が大きい発進や加速時にモータを同時駆動し燃費効率の向上をサポートするマイルドハイブリッドがあります。マイルドハイブリッドは、軽乗用車での採用が広がっています。
  3. PHEV:エンジンとモータ、外部電源からの充電が可能なバッテリーを搭載しています。HVに比べより長時間のモータ走行が可能です。
  4. FCV:水素と酸素で電気を発生させる「燃料電池」を搭載、モータで走行します。水素タンクと燃料電池、モータを搭載しています。

EVは他のエコカーと合わせて電動車と総称されています

わが国では、経済産業省が中心になりエコカーの普及を促進する「グリーン成長戦略」を策定しています。その対象となる車種がEV、HV、PHV、FCVの4車種です。これらの4車種を「電動車」と総称しています。

EVがリードする世界のエコカー市場

エコカーの世界における販売状況(2022年)を見ると、EVが10%、HVが7%、PHV3%と、EVがリードする状況となっています。

世界のパワトレ別販売台数  全体は約7,870万台(2022年)

 

世界のパワトレ別販売台数


出典:マークラインズデータを基に経済産業省作成図

また、主要な国・地域別の販売台数に占めるEVの比率は世界平均10%、中国18%、欧州(英仏独の3か国)13%、米国7%、日本2%となっています。世界のエコカーをリードするEVですが、わが国のポジションは高いとは言えないのが現状です。

主要国・地域におけるEVの販売比率の推移

主要国・地域におけるEVの販売比率の推移


出典:マークラインズデータを基に経済産業省作成図

なぜEVは世界で注目されているのでしょうか

温室効果ガス対策の世界的取り組みがスタート

世界の主要国・地域は、2035年を目途として、新車販売に占める電動車の割合を50~100%に引き上げる目標を掲げています。この目標設定の背景にあるのが、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」です。この協定により、世界が2020年以降の気候変動問題、温室効果ガス対策への具体的な取り組みが求められる状況となったためです。電動化の対象となる車種は国と地域により多少の違いが見られますが、EV、HV、PHV、FCVから選ばれています。

EVに集約されてきたエコカーの展開

これら車種の中で、EVが特に注目されたのはカーボンニュートラル効果が大きく省資源にも貢献、実用車として量産化が可能な状況があったためです。さらにEVが関心を集める大きなポイントとして、参入障壁の低さがあげられます。EVは技術開発および車体構造のシンプルさから、生産面においても参入障壁が低い成長市場だと認識されています。現実に、米国のベンチャー企業テスラが短期間でワールドワイドビジネスを展開する企業に躍進、自動車業界で後発グループに属する中国企業が急速に世界でのEVシェアを伸ばしています。

世界の主要なEVメーカー

高い世界シェアを持つEVメーカーは、販売台数の絶対数の関係もあって順位にブレがありますが、EV比率が高い国・地域とほぼリンクしています。米国テスラが19%のシェアを占め1位、次いで中国BYDが16%で2位、ドイツVWグループが8%のシェアで3位、米国GMグループが7%のシェアで4位という状況です。5位、6位は中国メーカー、7位に韓国メーカー、国内メーカーが登場するのは10位となっています。この10位ですが、日産自動車と三菱自動車、フランスのルノーの連合体としてのランクです。

出典: マークラインズをもとに日経新聞がまとめた2023年の世界シェア

EVがもたらすメリットとデメリット

ここでは「EVのオーナー」としての立場と「環境への負荷」という視点から、EVがもたらす主なメリットとデメリットを見て行きます。

オーナーから見たメリットとデメリット

オーナーのメリット

  • 補助金制度

制度名は「クリーンエネルギー自動車導入促進補助(CEV補助金)」です。個別の車種別に金額が設定されていて、EVは最大85万円、軽EVで同55万円、PHVは同55万円、FCV同255万円ですが、HVは対象から外れています。その他、充電設備(V2H充放電設備・外部給電器)の設置についても補助金制度が設けられています。また自治体による電動車支援制度も見受けられます。

  • 優遇税制

EVだけではありませんが、エコカーの購入や保有で税金の負担が軽減します。軽減対象となる税金の種類は「エコカー減税(自動車重量税)」、「グリーン化特例(自動車税(種別割)・軽自動車税(種別割))」、「環境性能割(自動車税・軽自動車税)」です。

  • ランニングコストの安さ

自宅での充電か、充電ステーションでの充電かにより電力単価が異なります。また自動車それぞれの性能にも差がありますが、一般的なモデルでは、EVの方が3~4割ランニングコストが安いという評価が見れます。

  • 多目的利用ができる

非常時には、EV の車載バッテリーを電源として利用できます。大容量のバッテリーを搭載しているためです。また非常時以外でも、アウトドアライフにおける移動する電源としても利用できます。なおPHVも同様な利用ができます。

  • 乗り心地と満足感

振動が少なく燃料や排気ガスの匂いがない、加速機能に優れるなど快適な乗り心地を維持できます。またEVを所有することで、カーボンニュートラルへの参加意識も実感できます。

オーナーのデメリット

  • 車体価格の高さ

ガソリン車に比べると車体価格が高く、補助金が得られるとしても、多くの人が購入決定に悩むレベルかもしれません。日産自動車の例では普通車「リーフ」の新車価格が408万円以上、軽自動車「サクラ」でも254万以上となっています。

  • 航続距離の短さ

ガソリン車に比べると、EVの航続距離の短さがデメリットとなっています。一般的なガソリン車の満タン時の航続距離は600~1,500km、EVのフル充電後の航続距離は200~500 kmが目安です。現状では、航続距離に大きな開きが見られます。

  • 充電時間の長さ

ガソリン車は数分で満タン状態にできますが、EVはバッテリーをフル充電するためには長い時間を要します。例えばバッテリー容量20kWhの軽EV(日産自動車サクラなど)をモデルで見ると、出力3kWの普通充電で約8時間、出力6kW(V2H)の普通充電で約4時間となります。なお急速充電を使用すれば、連続充電時間の制限などがありますが、数分の1程度の時間で充電が可能です。

  • 充電環境が未整備

多くのEVオーナーにとっての不満は、充電ステーションの少なさです。充電ステーションは、コンビニやカーディーラー、ショッピングモール、宿泊施設など、全国で2.2万ヶ所に設置されています。給油所(ガソリンスタンド)は2.8万ヶ所と格差はあるもの、充電ステーションは年々増加傾向にあり、近年中に逆転すると予測されています。(共に2023年度/経済産業省)

なお、EVは家庭で自家用のEV用充電器を設置すれば、自宅での充電が可能です。基本モデルは壁掛けタイプとスタンドタイプで、前者は5~50万円、後者は30万円前後から100万円という価格帯が一般的です。

環境負荷対策にもたらすメリットとデメリット

石油系燃料を使わないEVは、走行時に温室効果ガスを排出しないという環境に大きなメリットがあります。そのため、温室効果ガスの規制に厳しい欧州ではEVの普及に力を入れています。

現在の温室効果ガス排出量の評価では、自動車の走行時のCO2排出量だけでなく、エネルギー源となる電力発電時、ガソリン製造時のCO2排出量も加算して見るケースが一般化しています。

CO2排出量


出典:(一社)次世代自動車振興センター

上図のWell to Wheel とは、内燃エンジンを装備する自動車では油田からタイヤを駆動(走行)するまで、EVの場合は発電源からタイヤを駆動(走行)するまでのCO2排出量を表します。

環境負荷という視点では、走行時のCO2排出量だけでなく、EVに使用される材料や部材の生産、本体の生産から納車、走行(燃料と燃費)、車体の廃棄に至るまでのLCA(ライフサイクル アセスメント)へと検証範囲が広がっています。先行的なLCA検証事例では、EVは必ずしも環境負荷が小さいと言えないという報告も見られます。目に見えるEVのメリットははっきりしていますが、その車体の起源とエネルギー源まで遡ると、デメリットが浮かび上がって来る可能性もあります。今後のEVの多様なLCA検証評価が注目されています。

世界の主要国と地域の取り組み

2015年の「パリ協定」以降から、世界的にエコカーの導入に拍車がかかっています。温室効果ガス対策として、世界の主要国・地域が自動車の電動化目標を明確にしたためです。

  1. 日本:2035年までに新車販売で100%を実現。対象車種はEV、HV、PHV、FCV。
  2. EU:2035年までにCO2排出100%減(排気管ベース)。対象車種はEV、FCV。
  3. 英国:2035年までに新車販売で100%を実現。対象車種はEV、FCV。
  4. 米国:2030年までに新車販売で50%を実現。対象車種はEV、PHV、FCV。
  5. 中国:2035年までに新車販売で50%を実現。対象車種はEV、PHV、FCV。残り50%はHV。

出典:自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について(経済産業省)

米国のグリーンビークル政策・方針

米国では、バイデン大統領が2021年に署名した大統領令により、「2030年までにアメリカ国内で販売する新車の50%以上を電動化(クリーンビークル)する」という政策がスタートしています。2022年には、最大7,500ドルにおよぶEV、PHEVなどの税額控除(インフレ抑制法)が始まり、EVの需要喚起に貢献しています。ただし適用条件に、車体の最終組み立てが北米であることなど、国内産業の保護的な要素が盛り込まれています。

また、電動車の実現目標を達成するために、2023年に新たな環境規制を発表しています。「2027~2032年製車両を対象とする排ガス規制案」、「企業別の平均燃費(CAFE)基準を含む燃費規制案」です。米国ではインセンティブと環境規制施策が並行して推進される形となっています。

ヨーロッパ(EU)の政策・方針

EUは、「欧州グリーンディール」を背景として、CO2排出量を「2030年までに2021年比で55%削減」、「2035年までに2021年比で100%削減」を目標としています。CO2を排出するHVやPHVは、事実上の禁止に等しい扱いとなります。その緩和策として、ドイツから2035年以降も合成燃料(e-fuel)を使う内燃機関の利用が提案され、EU理事会で承認されています。またドイツは、EVを含む低排出ガス車購入時の助成を、前倒しで終了すると発表しています。EUではインセンティブによる需要喚起よりも、規制強化によりEVの普及促進を図るという方針が伺えます。

中国

中国は2010年前後に自動車産業調整新興規画をスタート、大規模な国家予算によるNEV(新エネルギー車/エコカー)の開発と、補助金の支給による普及に乗り出しています。その政策は今日の政策にも引き継がれ、2035年までにNEVの割合を50%以上という目標を掲げています。さらに、NEV中のEVの比率を95%まで引き上げるとしています。また補助金の支給だけでなく税制面の優遇も加えEV取得の推進を図っています。大きな流れとして、中国はEVに不可欠なレアメタルどの材料や電池を含むサプライチェーンの拡充、車体の開発支援を強化しています。国内需要を喚起しながら、世界市場における競争力を高める戦略が伺えます。

日本

日本の現状は次の通りです。世界のエコカーの車種別販売比率とは全く異なる構成を示しています。日本は自動車先進国として、HVやPHVを世界に先駆けて普及させてきました。反面、EV化に遅れを取っている状況が見えます。

2023年エコカー販売台数構成比


エコカーの最適な選択を目指して
 

日本ではグリーン成長戦略(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略の略)を背景として、2035年までに新車販売で自動車の電動化率100%を実現するという目標を掲げています。他の国や地域はEVをコアとした目標設定となっていますが、わが国の場合はEVに限定せずHV 、PHEV、FCVという電動車トータルの普及を進める政策としています。その目的は、自動車の使い方、例えば近距離であれば軽EVや軽HV、長距離の路線バスにはFCVなど、ユーザーの最適な選択を可能とするためです。

EVを視野に置いた道筋

政策展開の骨子では、到達すべき電動化目標の明確化、EVと家庭や施設と電力を共有する蓄電池の普及目標も掲げています。また充電・充填インフラ目標も示すことで、EVの普及促進を図る道筋を示す部分も見られます。日本の場合、国の政策を強力に推し進めるというよりは、官民の協力体制で温室効果ガス削減を推進するという方向性が伺えます。

まとめ

国内市場は利用目的にそって安定成長

わが国では1970年代の対米輸出車の排気ガス規制に始まり、環境対策と同時に国際競争力を高めるための省資源と省エネ技術の開発を進めています。現在は自動車の環境適合技術の研究は世界のトップベルに立っています。その技術を応用して、EVからFCVまで、多様なエコカーを顧客と社会の求めに応じて提供できる状況にあります。今後の国内EV市場は、国の戦略にそって車種間の使い分けに対応する方向で発展すると予想されます。

海外メーカーとの競合

ベンツを始めドイツの老舗メーカーやBYDのTVCMが目につくようになり、海外メーカーの日本市場への展開が感じられる状況となっています。EVシフトが遅れている日本は、海外メーカーに魅力的な市場と見なされているようです。そのため、これまでのように国や自治体の補助金を追い風とするだけでなく、国が提唱するEVとスマートハウスやスマートコミュニティとリンク、ユーザーの利用目的に応じたモデル開発などが競争力強化に役立つと考えられます。

参考:自動車分野のカーボンニュートラルに向けた 国内外の動向等について

 

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EVの意味とは?HV・PHV・FCVとの違いも解説

EVの意味とは?HV・PHV・FCVとの違いも解説

EVとはElectric Vehicleの略称です。直訳すると電気自動車ですが、BEV(バッテリ式電気自動車)と表すケースも見られます。EVはHV(ハイブリッド自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)、FCV(燃料電池自動車)と同様に、国が定めたエコカー4車種のひとつです。わが国だけなく、地球温暖化の原因のひとつである温室効果ガス(CO2)の排出を抑制して、カーボンニュートラルの実現に貢献すると期待されています。ここでは、環境に優しい自動車として、世界的に注目を集めているEVについて詳しく解説をします。

エコカーの種類と特徴 

EVはBEVとも表記されますが、ハイブリッド自動車と燃料電池自動車は電気を動力源とするモータを使用するところから、electricのEを加えHEV、PHEV、FCEVと表すケースも見られます。なお、ここではEV、HV、PHV、FCVと表記します。それぞれの自動車の特徴は次の通りです。

出典:資源エネルギー庁

カーボンニュートラルに貢献するEVとFCV

エコカーのHV、PHVは、共にガソリンエンジン(内燃機関)を搭載しています。石油系燃料を使用するため、ガソリン車より環境負荷は小さいものの、温室効果ガス排出源のひとつとなります。一方、EVとFCVはそれぞれ電気と水素を動力源として使用するので、石油系燃料を必要としません。そのため走行時においては温室効果ガスの発生が無く、カーボンニュートラルと同時に省資源にも貢献します。ディーゼルエンジンのハイブリッド自動車もありますが、限られた車種しかないのでここでの解説では割愛します。

EVはとてもシンプルな構造の自動車 

EVの基本装備は、バッテリーとモータです。HVやPHVのようなエンジン、FCVの水素タンクという装備がなく、シンプルな基本構造となります。

  1. EV:エンジンを搭載しておらず、車載バッテリーでモータ走行します。
  2. HV:エンジンとモータを搭載、エンジンで発電してモータで走行します。HVにはエンジンを切ってもモータ(電力)だけで走行が可能なストロングハイブリッドと、エネルギー消費が大きい発進や加速時にモータを同時駆動し燃費効率の向上をサポートするマイルドハイブリッドがあります。マイルドハイブリッドは、軽乗用車での採用が広がっています。
  3. PHEV:エンジンとモータ、外部電源からの充電が可能なバッテリーを搭載しています。HVに比べより長時間のモータ走行が可能です。
  4. FCV:水素と酸素で電気を発生させる「燃料電池」を搭載、モータで走行します。水素タンクと燃料電池、モータを搭載しています。

EVは他のエコカーと合わせて電動車と総称されています

わが国では、経済産業省が中心になりエコカーの普及を促進する「グリーン成長戦略」を策定しています。その対象となる車種がEV、HV、PHV、FCVの4車種です。これらの4車種を「電動車」と総称しています。

EVがリードする世界のエコカー市場

エコカーの世界における販売状況(2022年)を見ると、EVが10%、HVが7%、PHV3%と、EVがリードする状況となっています。

世界のパワトレ別販売台数  全体は約7,870万台(2022年)

 

世界のパワトレ別販売台数


出典:マークラインズデータを基に経済産業省作成図

また、主要な国・地域別の販売台数に占めるEVの比率は世界平均10%、中国18%、欧州(英仏独の3か国)13%、米国7%、日本2%となっています。世界のエコカーをリードするEVですが、わが国のポジションは高いとは言えないのが現状です。

主要国・地域におけるEVの販売比率の推移

主要国・地域におけるEVの販売比率の推移


出典:マークラインズデータを基に経済産業省作成図

なぜEVは世界で注目されているのでしょうか

温室効果ガス対策の世界的取り組みがスタート

世界の主要国・地域は、2035年を目途として、新車販売に占める電動車の割合を50~100%に引き上げる目標を掲げています。この目標設定の背景にあるのが、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」です。この協定により、世界が2020年以降の気候変動問題、温室効果ガス対策への具体的な取り組みが求められる状況となったためです。電動化の対象となる車種は国と地域により多少の違いが見られますが、EV、HV、PHV、FCVから選ばれています。

EVに集約されてきたエコカーの展開

これら車種の中で、EVが特に注目されたのはカーボンニュートラル効果が大きく省資源にも貢献、実用車として量産化が可能な状況があったためです。さらにEVが関心を集める大きなポイントとして、参入障壁の低さがあげられます。EVは技術開発および車体構造のシンプルさから、生産面においても参入障壁が低い成長市場だと認識されています。現実に、米国のベンチャー企業テスラが短期間でワールドワイドビジネスを展開する企業に躍進、自動車業界で後発グループに属する中国企業が急速に世界でのEVシェアを伸ばしています。

世界の主要なEVメーカー

高い世界シェアを持つEVメーカーは、販売台数の絶対数の関係もあって順位にブレがありますが、EV比率が高い国・地域とほぼリンクしています。米国テスラが19%のシェアを占め1位、次いで中国BYDが16%で2位、ドイツVWグループが8%のシェアで3位、米国GMグループが7%のシェアで4位という状況です。5位、6位は中国メーカー、7位に韓国メーカー、国内メーカーが登場するのは10位となっています。この10位ですが、日産自動車と三菱自動車、フランスのルノーの連合体としてのランクです。

出典: マークラインズをもとに日経新聞がまとめた2023年の世界シェア

EVがもたらすメリットとデメリット

ここでは「EVのオーナー」としての立場と「環境への負荷」という視点から、EVがもたらす主なメリットとデメリットを見て行きます。

オーナーから見たメリットとデメリット

オーナーのメリット

  • 補助金制度

制度名は「クリーンエネルギー自動車導入促進補助(CEV補助金)」です。個別の車種別に金額が設定されていて、EVは最大85万円、軽EVで同55万円、PHVは同55万円、FCV同255万円ですが、HVは対象から外れています。その他、充電設備(V2H充放電設備・外部給電器)の設置についても補助金制度が設けられています。また自治体による電動車支援制度も見受けられます。

  • 優遇税制

EVだけではありませんが、エコカーの購入や保有で税金の負担が軽減します。軽減対象となる税金の種類は「エコカー減税(自動車重量税)」、「グリーン化特例(自動車税(種別割)・軽自動車税(種別割))」、「環境性能割(自動車税・軽自動車税)」です。

  • ランニングコストの安さ

自宅での充電か、充電ステーションでの充電かにより電力単価が異なります。また自動車それぞれの性能にも差がありますが、一般的なモデルでは、EVの方が3~4割ランニングコストが安いという評価が見れます。

  • 多目的利用ができる

非常時には、EV の車載バッテリーを電源として利用できます。大容量のバッテリーを搭載しているためです。また非常時以外でも、アウトドアライフにおける移動する電源としても利用できます。なおPHVも同様な利用ができます。

  • 乗り心地と満足感

振動が少なく燃料や排気ガスの匂いがない、加速機能に優れるなど快適な乗り心地を維持できます。またEVを所有することで、カーボンニュートラルへの参加意識も実感できます。

オーナーのデメリット

  • 車体価格の高さ

ガソリン車に比べると車体価格が高く、補助金が得られるとしても、多くの人が購入決定に悩むレベルかもしれません。日産自動車の例では普通車「リーフ」の新車価格が408万円以上、軽自動車「サクラ」でも254万以上となっています。

  • 航続距離の短さ

ガソリン車に比べると、EVの航続距離の短さがデメリットとなっています。一般的なガソリン車の満タン時の航続距離は600~1,500km、EVのフル充電後の航続距離は200~500 kmが目安です。現状では、航続距離に大きな開きが見られます。

  • 充電時間の長さ

ガソリン車は数分で満タン状態にできますが、EVはバッテリーをフル充電するためには長い時間を要します。例えばバッテリー容量20kWhの軽EV(日産自動車サクラなど)をモデルで見ると、出力3kWの普通充電で約8時間、出力6kW(V2H)の普通充電で約4時間となります。なお急速充電を使用すれば、連続充電時間の制限などがありますが、数分の1程度の時間で充電が可能です。

  • 充電環境が未整備

多くのEVオーナーにとっての不満は、充電ステーションの少なさです。充電ステーションは、コンビニやカーディーラー、ショッピングモール、宿泊施設など、全国で2.2万ヶ所に設置されています。給油所(ガソリンスタンド)は2.8万ヶ所と格差はあるもの、充電ステーションは年々増加傾向にあり、近年中に逆転すると予測されています。(共に2023年度/経済産業省)

なお、EVは家庭で自家用のEV用充電器を設置すれば、自宅での充電が可能です。基本モデルは壁掛けタイプとスタンドタイプで、前者は5~50万円、後者は30万円前後から100万円という価格帯が一般的です。

環境負荷対策にもたらすメリットとデメリット

石油系燃料を使わないEVは、走行時に温室効果ガスを排出しないという環境に大きなメリットがあります。そのため、温室効果ガスの規制に厳しい欧州ではEVの普及に力を入れています。

現在の温室効果ガス排出量の評価では、自動車の走行時のCO2排出量だけでなく、エネルギー源となる電力発電時、ガソリン製造時のCO2排出量も加算して見るケースが一般化しています。

CO2排出量


出典:(一社)次世代自動車振興センター

上図のWell to Wheel とは、内燃エンジンを装備する自動車では油田からタイヤを駆動(走行)するまで、EVの場合は発電源からタイヤを駆動(走行)するまでのCO2排出量を表します。

環境負荷という視点では、走行時のCO2排出量だけでなく、EVに使用される材料や部材の生産、本体の生産から納車、走行(燃料と燃費)、車体の廃棄に至るまでのLCA(ライフサイクル アセスメント)へと検証範囲が広がっています。先行的なLCA検証事例では、EVは必ずしも環境負荷が小さいと言えないという報告も見られます。目に見えるEVのメリットははっきりしていますが、その車体の起源とエネルギー源まで遡ると、デメリットが浮かび上がって来る可能性もあります。今後のEVの多様なLCA検証評価が注目されています。

世界の主要国と地域の取り組み

2015年の「パリ協定」以降から、世界的にエコカーの導入に拍車がかかっています。温室効果ガス対策として、世界の主要国・地域が自動車の電動化目標を明確にしたためです。

  1. 日本:2035年までに新車販売で100%を実現。対象車種はEV、HV、PHV、FCV。
  2. EU:2035年までにCO2排出100%減(排気管ベース)。対象車種はEV、FCV。
  3. 英国:2035年までに新車販売で100%を実現。対象車種はEV、FCV。
  4. 米国:2030年までに新車販売で50%を実現。対象車種はEV、PHV、FCV。
  5. 中国:2035年までに新車販売で50%を実現。対象車種はEV、PHV、FCV。残り50%はHV。

出典:自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について(経済産業省)

米国のグリーンビークル政策・方針

米国では、バイデン大統領が2021年に署名した大統領令により、「2030年までにアメリカ国内で販売する新車の50%以上を電動化(クリーンビークル)する」という政策がスタートしています。2022年には、最大7,500ドルにおよぶEV、PHEVなどの税額控除(インフレ抑制法)が始まり、EVの需要喚起に貢献しています。ただし適用条件に、車体の最終組み立てが北米であることなど、国内産業の保護的な要素が盛り込まれています。

また、電動車の実現目標を達成するために、2023年に新たな環境規制を発表しています。「2027~2032年製車両を対象とする排ガス規制案」、「企業別の平均燃費(CAFE)基準を含む燃費規制案」です。米国ではインセンティブと環境規制施策が並行して推進される形となっています。

ヨーロッパ(EU)の政策・方針

EUは、「欧州グリーンディール」を背景として、CO2排出量を「2030年までに2021年比で55%削減」、「2035年までに2021年比で100%削減」を目標としています。CO2を排出するHVやPHVは、事実上の禁止に等しい扱いとなります。その緩和策として、ドイツから2035年以降も合成燃料(e-fuel)を使う内燃機関の利用が提案され、EU理事会で承認されています。またドイツは、EVを含む低排出ガス車購入時の助成を、前倒しで終了すると発表しています。EUではインセンティブによる需要喚起よりも、規制強化によりEVの普及促進を図るという方針が伺えます。

中国

中国は2010年前後に自動車産業調整新興規画をスタート、大規模な国家予算によるNEV(新エネルギー車/エコカー)の開発と、補助金の支給による普及に乗り出しています。その政策は今日の政策にも引き継がれ、2035年までにNEVの割合を50%以上という目標を掲げています。さらに、NEV中のEVの比率を95%まで引き上げるとしています。また補助金の支給だけでなく税制面の優遇も加えEV取得の推進を図っています。大きな流れとして、中国はEVに不可欠なレアメタルどの材料や電池を含むサプライチェーンの拡充、車体の開発支援を強化しています。国内需要を喚起しながら、世界市場における競争力を高める戦略が伺えます。

日本

日本の現状は次の通りです。世界のエコカーの車種別販売比率とは全く異なる構成を示しています。日本は自動車先進国として、HVやPHVを世界に先駆けて普及させてきました。反面、EV化に遅れを取っている状況が見えます。

2023年エコカー販売台数構成比


エコカーの最適な選択を目指して
 

日本ではグリーン成長戦略(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略の略)を背景として、2035年までに新車販売で自動車の電動化率100%を実現するという目標を掲げています。他の国や地域はEVをコアとした目標設定となっていますが、わが国の場合はEVに限定せずHV 、PHEV、FCVという電動車トータルの普及を進める政策としています。その目的は、自動車の使い方、例えば近距離であれば軽EVや軽HV、長距離の路線バスにはFCVなど、ユーザーの最適な選択を可能とするためです。

EVを視野に置いた道筋

政策展開の骨子では、到達すべき電動化目標の明確化、EVと家庭や施設と電力を共有する蓄電池の普及目標も掲げています。また充電・充填インフラ目標も示すことで、EVの普及促進を図る道筋を示す部分も見られます。日本の場合、国の政策を強力に推し進めるというよりは、官民の協力体制で温室効果ガス削減を推進するという方向性が伺えます。

まとめ

国内市場は利用目的にそって安定成長

わが国では1970年代の対米輸出車の排気ガス規制に始まり、環境対策と同時に国際競争力を高めるための省資源と省エネ技術の開発を進めています。現在は自動車の環境適合技術の研究は世界のトップベルに立っています。その技術を応用して、EVからFCVまで、多様なエコカーを顧客と社会の求めに応じて提供できる状況にあります。今後の国内EV市場は、国の戦略にそって車種間の使い分けに対応する方向で発展すると予想されます。

海外メーカーとの競合

ベンツを始めドイツの老舗メーカーやBYDのTVCMが目につくようになり、海外メーカーの日本市場への展開が感じられる状況となっています。EVシフトが遅れている日本は、海外メーカーに魅力的な市場と見なされているようです。そのため、これまでのように国や自治体の補助金を追い風とするだけでなく、国が提唱するEVとスマートハウスやスマートコミュニティとリンク、ユーザーの利用目的に応じたモデル開発などが競争力強化に役立つと考えられます。

参考:自動車分野のカーボンニュートラルに向けた 国内外の動向等について

 

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