脱炭素社会とは?カーボンニュートラルの違いと抱えている課題を解説
近年、地球温暖化への対策が世界的な課題として取り組まれています。
日本においても「脱炭素社会」への移行を目指して、政府・企業・市民団体・個人とさまざまな立場で取り組みが進められている状況です。
しかし「そもそも脱炭素社会とは何か」「カーボンニュートラルとの違いは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
そこで本記事では脱炭素社会の基本的な概念やカーボンニュートラルとの違い、課題について解説します。
目次
脱炭素社会とは、CO2の排出量が実質ゼロの社会のこと
脱炭素社会とは、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素(CO2)の排出量が実質的にゼロになった社会を指します。
温室効果ガスの増加により進行している地球温暖化ですが、CO2は温室効果ガスの中でももっとも高い割合を占めています。
特に日本においては、CO2排出量が温室効果ガス全体の排出量の90%以上を占めているという2019年度の統計もあるほどです。
地球温暖化対策として、CO2の排出を削減することは最重要課題といえます。
なお「脱炭素」は厳密な定義がなされている言葉ではありません。
そのため脱炭素社会という言葉は、CO2だけでなく温室効果ガス全体の排出量が実質的にゼロになった社会という意味で使われることもあります。
脱炭素とカーボンニュートラルの違いは、CO2吸収量の扱い方による
脱炭素には明確な定義が示されていないため、脱炭素とカーボンニュートラルはどちらも「CO2の排出量を実質的にゼロにする」という同じ意味で使われることがあります。
とはいえ、厳密に脱炭素とカーボンニュートラルを使い分ける場合は、CO2の排出量をどう計算するかという考え方の違いがポイントです。
厳密に使われる場合、脱炭素はCO2の排出量をゼロにすることを意味し、排出量を抑制したり、排出したCO2を新しい技術等で閉じ込めたり回収したりして、排出そのものをゼロにすることを指します。
一方、カーボンニュートラルはCO2の排出量だけでなく、植物によるCO2の吸収量も考慮し、排出量から吸収量を差し引いて実質的にゼロにすることを指します。
カーボンニュートラルでは、森林保全など植物を生育してCO2吸収量を増やすことも、推奨される対策です。
なお、ほかによく使われるネットゼロは、排出量を削減するとともに、植物による吸収量を増やしてCO2を差し引きゼロにするという考え方で、カーボンニュートラルとほぼ同じ意味で使われます。
脱炭素社会と「2050年カーボンニュートラル宣言」
国内で脱炭素社会とカーボンニュートラルという言葉に注目が集まるようになった背景には、菅総理大臣(当時)による「2050年カーボンニュートラル宣言」があります。
これは2020年10月第203回臨時国会で宣言されたもので、演説の該当部分の抜粋は以下のとおりです。
「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」
参考:「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)|経済産業省
この演説で「カーボンニュートラル」と「脱炭素社会」が並記されているとおり、両者の厳密な違いが問題にされることはあまりありません。
パリ協定における世界共通の長期目標、2℃目標の実現を目指して
そもそも「2050年カーボンニュートラル宣言」は、温室効果ガス削減に関する国際的な取り決めである「パリ協定」の実現に向けてなされたものです。
世界各国の気候変動対策も、日本の政策も「パリ協定」で採択された、以下のような世界共通の長期目標の実現を目指して策定されています。
「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」
パリ協定ではカーボンニュートラルの考え方が採用されていますが、森林の吸収量には限界があります。
2℃目標や「2050年カーボンニュートラル」を実現するには、脱炭素化を推進しCO2の排出を抑えることが不可欠です。
脱炭素社会に向けた、グリーン成長戦略等の国内の取り組みと課題
2015年に採択された「パリ協定」と2020年の「2050年カーボンニュートラル宣言」により、国内での気候変動対策は加速しています。
以下では日本政府の動きを中心とした国内の取り組みと課題について紹介します。
14の重要分野における実行計画を策定したグリーン成長戦略
「パリ協定」と「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、2021年には経済産業省を中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。
グリーン成長戦略は、温暖化対策を積極的に行うことで産業構造や社会経済の変革をもたらし、経済成長につなげていこうという産業政策です。
エネルギー・輸送/製造・家庭/オフィスに関連する14の重要分野における実行計画が策定され、具体的には、再生可能エネルギーの普及、省エネや脱炭素化の推進、革新的技術の開発などが主な取り組みに挙げられています。
企業の積極的な取り組みを後押しするために、政府は予算(グリーンイノベーション基金等)や税制、金融(グリーン・ファイナンス等)、国際連携などの施策を打ち出しています。
脱炭素社会の実現に向けた、政府によるさまざまな取り組み
政府は2021年に「2050年カーボンニュートラル」を目指すための野心的な目標として「2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指す」と表明し、国連気候変動枠組条約事務局へ提出しました。
参考:日本のNDC|環境省
「温室効果ガス46%削減」の達成は容易ではないため、あらゆる分野で対策を進める必要があります。
日本政府は以下のような取り組みを推進しています。
- カーボンプライシングの導入:排出した二酸化炭素に応じて、企業や個人が一定額を負担する制度
- エネルギーミックスの実現:再生可能エネルギーなど複数の発電方法を組み合わせた、安定的な電力の供給システムの構築
- 地域の脱炭素化への支援:地域脱炭素ロードマップの策定やゼロカーボンシティの促進など
2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会実現に関わる課題
日本政府や自治体によって取り組みが進められていますが、脱炭素社会実現のためには課題も多く残っています。
日本の産業構造を見ると、鉄鋼や化学、紙パルプ、セメントなどCO2を含む温室効果ガス排出量が多い産業が高い割合を占めていることがわかります。
鉄鋼業や化学、紙・パルプ産業、運輸業など化石燃料に頼って生産活動が行われている分野も多く、あらゆる分野で脱炭素を実現するには、長期的な戦略に基づいた段階的な移行が不可欠です。
またエネルギー分野においても、再生可能エネルギーが普及しつつあるものの、依然として化石燃料への依存度が高い状況にあります。
日本が抱える課題解決のためには、産業の特性に合わせた脱炭素実現の道筋を示すほか、各分野における技術革新、グリーン・ファイナンスやトランジション・ファイナンスなどによる資金面での支援が重要です。
<日本の産業部門別CO2排出量の内訳>
参考:企業の脱炭素化をサポートする「トランジション・ファイナンス」とは?(前編)|経済産業省
<日本の一次エネルギー供給構成の推移>
参考:2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)|経済産業省
2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けて
脱炭素社会とは、CO2の排出を削減して実質的にゼロになった社会のことです。
「2050年カーボンニュートラル」や脱炭素社会の実現に向けて日本は政府主導でさまざまな取り組みが進められています。
しかし政府の掲げる目標を達成するのは容易ではありません。
確実に脱炭素社会を実現するには、国・地方・企業・市民団体・個人とあらゆる立場で取り組みを進めていく必要があります。
企業や産業界にとって、温暖化対策が競争力低下につながらないように支援することも大切です。
グリーン成長戦略で謳われているように、積極的な脱炭素の取り組みが経済成長につながる事例、産業の競争力強化につながる事例を積み上げていくことが求められています。
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脱炭素社会とは?カーボンニュートラルの違いと抱えている課題を解説
近年、地球温暖化への対策が世界的な課題として取り組まれています。
日本においても「脱炭素社会」への移行を目指して、政府・企業・市民団体・個人とさまざまな立場で取り組みが進められている状況です。
しかし「そもそも脱炭素社会とは何か」「カーボンニュートラルとの違いは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
そこで本記事では脱炭素社会の基本的な概念やカーボンニュートラルとの違い、課題について解説します。
目次
脱炭素社会とは、CO2の排出量が実質ゼロの社会のこと
脱炭素社会とは、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素(CO2)の排出量が実質的にゼロになった社会を指します。
温室効果ガスの増加により進行している地球温暖化ですが、CO2は温室効果ガスの中でももっとも高い割合を占めています。
特に日本においては、CO2排出量が温室効果ガス全体の排出量の90%以上を占めているという2019年度の統計もあるほどです。
地球温暖化対策として、CO2の排出を削減することは最重要課題といえます。
なお「脱炭素」は厳密な定義がなされている言葉ではありません。
そのため脱炭素社会という言葉は、CO2だけでなく温室効果ガス全体の排出量が実質的にゼロになった社会という意味で使われることもあります。
脱炭素とカーボンニュートラルの違いは、CO2吸収量の扱い方による
脱炭素には明確な定義が示されていないため、脱炭素とカーボンニュートラルはどちらも「CO2の排出量を実質的にゼロにする」という同じ意味で使われることがあります。
とはいえ、厳密に脱炭素とカーボンニュートラルを使い分ける場合は、CO2の排出量をどう計算するかという考え方の違いがポイントです。
厳密に使われる場合、脱炭素はCO2の排出量をゼロにすることを意味し、排出量を抑制したり、排出したCO2を新しい技術等で閉じ込めたり回収したりして、排出そのものをゼロにすることを指します。
一方、カーボンニュートラルはCO2の排出量だけでなく、植物によるCO2の吸収量も考慮し、排出量から吸収量を差し引いて実質的にゼロにすることを指します。
カーボンニュートラルでは、森林保全など植物を生育してCO2吸収量を増やすことも、推奨される対策です。
なお、ほかによく使われるネットゼロは、排出量を削減するとともに、植物による吸収量を増やしてCO2を差し引きゼロにするという考え方で、カーボンニュートラルとほぼ同じ意味で使われます。
脱炭素社会と「2050年カーボンニュートラル宣言」
国内で脱炭素社会とカーボンニュートラルという言葉に注目が集まるようになった背景には、菅総理大臣(当時)による「2050年カーボンニュートラル宣言」があります。
これは2020年10月第203回臨時国会で宣言されたもので、演説の該当部分の抜粋は以下のとおりです。
「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」
参考:「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)|経済産業省
この演説で「カーボンニュートラル」と「脱炭素社会」が並記されているとおり、両者の厳密な違いが問題にされることはあまりありません。
パリ協定における世界共通の長期目標、2℃目標の実現を目指して
そもそも「2050年カーボンニュートラル宣言」は、温室効果ガス削減に関する国際的な取り決めである「パリ協定」の実現に向けてなされたものです。
世界各国の気候変動対策も、日本の政策も「パリ協定」で採択された、以下のような世界共通の長期目標の実現を目指して策定されています。
「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」
パリ協定ではカーボンニュートラルの考え方が採用されていますが、森林の吸収量には限界があります。
2℃目標や「2050年カーボンニュートラル」を実現するには、脱炭素化を推進しCO2の排出を抑えることが不可欠です。
脱炭素社会に向けた、グリーン成長戦略等の国内の取り組みと課題
2015年に採択された「パリ協定」と2020年の「2050年カーボンニュートラル宣言」により、国内での気候変動対策は加速しています。
以下では日本政府の動きを中心とした国内の取り組みと課題について紹介します。
14の重要分野における実行計画を策定したグリーン成長戦略
「パリ協定」と「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、2021年には経済産業省を中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。
グリーン成長戦略は、温暖化対策を積極的に行うことで産業構造や社会経済の変革をもたらし、経済成長につなげていこうという産業政策です。
エネルギー・輸送/製造・家庭/オフィスに関連する14の重要分野における実行計画が策定され、具体的には、再生可能エネルギーの普及、省エネや脱炭素化の推進、革新的技術の開発などが主な取り組みに挙げられています。
企業の積極的な取り組みを後押しするために、政府は予算(グリーンイノベーション基金等)や税制、金融(グリーン・ファイナンス等)、国際連携などの施策を打ち出しています。
脱炭素社会の実現に向けた、政府によるさまざまな取り組み
政府は2021年に「2050年カーボンニュートラル」を目指すための野心的な目標として「2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指す」と表明し、国連気候変動枠組条約事務局へ提出しました。
参考:日本のNDC|環境省
「温室効果ガス46%削減」の達成は容易ではないため、あらゆる分野で対策を進める必要があります。
日本政府は以下のような取り組みを推進しています。
- カーボンプライシングの導入:排出した二酸化炭素に応じて、企業や個人が一定額を負担する制度
- エネルギーミックスの実現:再生可能エネルギーなど複数の発電方法を組み合わせた、安定的な電力の供給システムの構築
- 地域の脱炭素化への支援:地域脱炭素ロードマップの策定やゼロカーボンシティの促進など
2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会実現に関わる課題
日本政府や自治体によって取り組みが進められていますが、脱炭素社会実現のためには課題も多く残っています。
日本の産業構造を見ると、鉄鋼や化学、紙パルプ、セメントなどCO2を含む温室効果ガス排出量が多い産業が高い割合を占めていることがわかります。
鉄鋼業や化学、紙・パルプ産業、運輸業など化石燃料に頼って生産活動が行われている分野も多く、あらゆる分野で脱炭素を実現するには、長期的な戦略に基づいた段階的な移行が不可欠です。
またエネルギー分野においても、再生可能エネルギーが普及しつつあるものの、依然として化石燃料への依存度が高い状況にあります。
日本が抱える課題解決のためには、産業の特性に合わせた脱炭素実現の道筋を示すほか、各分野における技術革新、グリーン・ファイナンスやトランジション・ファイナンスなどによる資金面での支援が重要です。
<日本の産業部門別CO2排出量の内訳>
参考:企業の脱炭素化をサポートする「トランジション・ファイナンス」とは?(前編)|経済産業省
<日本の一次エネルギー供給構成の推移>
参考:2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)|経済産業省
2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けて
脱炭素社会とは、CO2の排出を削減して実質的にゼロになった社会のことです。
「2050年カーボンニュートラル」や脱炭素社会の実現に向けて日本は政府主導でさまざまな取り組みが進められています。
しかし政府の掲げる目標を達成するのは容易ではありません。
確実に脱炭素社会を実現するには、国・地方・企業・市民団体・個人とあらゆる立場で取り組みを進めていく必要があります。
企業や産業界にとって、温暖化対策が競争力低下につながらないように支援することも大切です。
グリーン成長戦略で謳われているように、積極的な脱炭素の取り組みが経済成長につながる事例、産業の競争力強化につながる事例を積み上げていくことが求められています。
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