カーボンニュートラルとは? 脱炭素や低炭素の違いをわかりやすく解説

カーボンニュートラルとは? 脱炭素や低炭素の違いをわかりやすく解説

ニュースなどでたまに耳にすることがある「カーボンニュートラル」。現在、世界各国がこのカーボンニュートラル実現に向けて取り組みを加速させています。地球温暖化が進む昨今において、カーボンニュートラルは世界中で取り組むべき共通の課題となっています。

カーボンニュートラルとはどのようなものか、本記事では詳しく解説するとともにメリットやデメリット、カーボンニュートラルに潜むリスクなどについて解説します。

目次

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となる「温室効果ガス」の排出量と吸収量を均衡させ、全体としてゼロにすることを言います。

つまり大気中に拡散された二酸化炭素(CO2)やメタン、フロンガスといった温室効果ガスの排出量から、森林や植林による吸収量を差し引くことで実質ゼロにするという意味です。

樹木は、大気中の二酸化炭素などを吸収する働きがあるため、森林破壊を防止し植林活動を促進させることで、温室効果ガスの吸収量を増やせます。

カーボンニュートラルはなぜ必要なのか

カーボンニュートラルが必要な理由は、カーボンニュートラルを目指すことで地球温暖化を抑制できるからです。

2020年時点において、世界の平均気温は工業化以前の1850年から1900年頃と比較するとすでに1.1℃上昇しています。

出典:環境省 気象庁 世界の年平均気温偏差

温暖対策

このまま放っておくと気温上昇はさらに続くと予測されています。豪雨や猛暑などの気象災害が頻発するようになり、気候危機に陥ることが懸念されているのです。

すでに「気候変動」よりも緊急性の高い「気候危機」という言葉が用いられていることから、カーボンニュートラルを目指すことは急務と言えます。

カーボンニュートラルはSDGsへの取り組みの一環

カーボンニュートラルはいわゆる「SDGs」への取り組みの一環でもあります。主に、SDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」がカーボンニュートラルの施策に直結する取り組みとなります。

SDGs 目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成目標項目の中の一つに「再生可能エネルギーの割合を大きく増やす」というものがあります。いわゆるこれがCO2などの温室効果ガス削減の効果に繋がります。

また、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成目標項目の中に「気候変動への対応を国の政策や戦略に入れる」「気候変動が起きるスピードをゆるめたり影響を減らしたりする」といったものがあり、これも国が推進しているカーボンニュートラルへの施策に繋がります。

カーボンニュートラルと他の取り組みとの違いとは

以下ではカーボンニュートラルと似ている他の取り組みとの違いについて解説します。

  • カーボンニュートラルと低炭素・脱炭素社会の違いとは
  • カーボンニュートラルとカーボンオフセットの違いとは
  • カーボンニュートラルとカーボンゼロの違いとは

カーボンニュートラルと脱炭素社会の違いとは

カーボンニュートラルは地球温暖化の原因となる「温室効果ガス」の排出量と吸収量を均衡させ、全体としてゼロにすることを言います。この排出量をゼロにするべく森林破壊の防止、または植林活動の促進などを行います。

一方、脱炭素社会とはカーボンニュートラルを実現した社会のことを言います。温室効果ガスを実質ゼロにできた状態を「脱炭素」、脱炭素を実現した社会が「脱炭素社会」となります。つまり、カーボンニュートラルが「取り組み」である一方、脱炭素社会は「状態」を指しているという違いがあります。

低炭素社会とは

他方「低炭素社会」という言葉もあります。低炭素社会は温室効果ガスの排出量を削減できた社会のことを言います。

カーボンニュートラルによって温室効果ガスの排出量を実質ゼロにできた状態を「脱炭素社会」とする一方、ゼロにはなっていないが削減できた状態を「低炭素社会」としています。つまり脱炭素社会と低炭素社会の違いは以下のようになります。

脱炭素社会と低酸素社会

カーボンニュートラルとカーボンオフセットの違いとは

カーボンオフセットは温室効果ガスの削減や温室効果ガスの吸収量増加につながる活動に投資することで、温室効果ガスの排出量を埋め合わせる考え方です。

例えば、宅配業者がエンジン付きの車両を使用せず、自転車や台車を使用して業務を行うことで温室効果ガスの削減に貢献しています。そして削除努力で削除できない部分に関してはカーボンクレジットを購入して排出量を「相殺=オフセット」します。

つまり、カーボンニュートラルが温室効果ガスを実質ゼロにする取り組み全般を指す言葉である一方で、カーボンオフセットはカーボンニュートラルを実現するための一つの手段に過ぎない、という違いがあります。

カーボンニュートラルとカーボンゼロの違いとは

カーボンニュートラルもカーボンゼロも、温室効果ガスをゼロにするという点でほぼ意味は同じですが、微妙にニュアンスの違いがあります。カーボンゼロとは、正しくはネットゼロカーボンのことで、カーボンを「ネットゼロ=正味ゼロ」にする考え方になります。

一方、カーボンニュートラルは「ニュートラル=中立」にするというニュアンスがあります。つまり、ネットゼロは「温室効果ガスそのものを無くす」というニュアンスが強い一方で、カーボンニュートラルは「排出した温室効果ガスを相殺する」というニュアンスが強めとなります。

カーボンニュートラルがもたらす影響とは

以下ではカーボンニュートラルがもたらす影響について解説します。

  • カーボンニュートラルのメリットとは
  • カーボンニュートラルのデメリットとは
  • カーボンニュートラルのリスクや問題点とは

カーボンニュートラルのメリットとは

企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットとしては以下が挙げられます。

  • 自社の優位性を確立できる
  • 光熱費や燃料費の低減につながる
  • 知名度や認知度の向上が見込める
  • 従業員のモチベーションが上り人材獲得力も向上する
  • 好条件で資金が調達できる

自社の優位性を確立できる

自社が他社よりもいち早くカーボンニュートラルに取り組むことで、環境保護意識の高い企業というイメージを世間に与えることができます。

「他社よりも一歩進んでいる」「脱炭素経営に意識が高い」という良いイメージが持たれるようになり、SDGsなどの観点から他社イメージよりも自社イメージの優位性を確立できます。

光熱費や燃料費の低減につながる

カーボンニュートラルでは石油や石炭、天然ガスといった化石燃料ではなく、太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーの使用が求められます。

この再生可能エネルギーを利用することで、それまでかかっていた化石燃料のコストを削減できます。企業の業種によっては、半分近く光熱費や燃料費を削減できる場合もあります。

知名度や認知度の向上が見込める

カーボンニュートラルにいち早く取り組む企業として、市場における知名度や認知度の向上が見込めるようになります。引いてはメディアなどに取り上げられることもあり、いわゆる「企業ブランディング」としての効果もあります。

従業員のモチベーションがあがり人材獲得力も向上する

カーボンニュートラルに取り組む企業として、市場での知名度や認知度が向上することにより従業員にもエンゲージメントが生まれ、モチベーションもあがるようになります。

従業員のモチベーションが高い企業は生産性や積極性といった要素の向上にもつながり、さらなる企業の発展に貢献します。魅力的な企業は優秀な人材の目にも止まり、人材獲得力の向上も期待できるようになります。

好条件で資金が調達できる

一部金融機関において、カーボンニュートラルやSDGsに取り組んでいる企業に対して、従来の事業融資基準を暖和させて融資を行っているところもあります。こういった金融機関を利用して資金調達を行うことにより、他社よりも有利な条件で資金調達ができます。

カーボンニュートラルのデメリットとは

企業がカーボンニュートラルに取り組むデメリットとしては以下が挙げられます。

  • 初期投資が必要
  • 火力発電から脱却する必要がある

初期投資が必要

カーボンニュートラルに取り組むためには多額の初期投資が必要となります。代表的な再生可能エネルギーには「太陽光発電」「風力発電」「水力発電」「地熱発電」がありますが、いずれも発電所の建設コストが掛かります。

また、太陽光やある程度の強風が得られる広い平地も必要となります。さらに土地の整備費用や電力送電網の構築、災害対策と維持などにもコストが掛かります。

火力発電から脱却する必要がある

化石燃料を使用した従来の火力発電は、大量の二酸化炭素を排出しています。そのため、カーボンニュートラルに取り組むためにはまず火力発電から脱却する必要があります。

現在日本国内において、メインで電力を賄っているのが火力発電であり、2022年の時点では火力発電の割合が73%を占めています。

参考:経済産業省 資源エネルギー庁 日本国内における発電の組み合わせと割合

発電の組み合わせの目標

こういった事情から、現状火力発電に頼らず電力を安定供給することが難しい状況となっており、この問題を解決することが一つの課題となっています。

カーボンニュートラルのリスクや問題点とは

カーボンニュートラルのリスクとして挙げられるのが、環境問題悪化を加速させてしまう可能性があることです。カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロの状態にすることです。

つまり差し引きゼロにできれば「どれだけ温室効果ガスを排出してもよい」という発想につながります。温室効果ガスの主な吸収源が森林や植林ですが、例えばこれらの森林や植林が災害などで急激に減少することも考えられます。

そういったときに、吸収しきれなかった温室効果ガスが濃度の高い状態で地球上に拡散されていく可能性もあります。気候危機を食い止めるためには、温室効果ガスの排出量をいかに抑制するかが鍵となるため、カーボンニュートラルにおいてはこういった差し引きゼロの考え方にリスクがあると言えます。

再生可能エネルギーの生産にもリスクがある

カーボンニュートラルは再生可能エネルギーを利用しますが、この再生可能エネルギーが本当に環境に良い影響を与えるのか、といった異論は以前より唱えられています。

例えば、風力発電では火力発電や原子力発電と同等の電力を生産するために、火力発電や原子力発電よりもはるかに広い敷地面積を必要とするため生態系への影響も懸念されます。

実際にドイツでは1400基の風車を建設する予定がわずか35基となっています。さらに騒音や景観を損ねるといった環境問題の懸念もあります。

カーボンニュートラルに対する国や企業の取り組みについて

以下ではカーボンニュートラルに対する国や企業の取り組みについて解説しました。

  • カーボンニュートラルに対する国の取り組み
  • カーボンニュートラルに対する企業の取り組み
  • カーボンニュートラルに対する各国の取り組み

カーボンニュートラルに対する国の取り組み

政府は2050年までのカーボンニュートラル実現に向けて数々の施策を打ち出しています。

例えば、脱炭素事業を営む経営者に対して新たな出資制度を設けるべく脱炭素化支援機構を設立しました。

また民間企業が高い目標を掲げてカーボンニュートラルに挑戦できる環境づくりや支援制度の確立、脱炭素に取り組む地方公共団体への積極的支援など、国を挙げて取り組みを行っています。

カーボンニュートラルに対する企業の取り組み

以下にカーボンニュートラルに対する企業の取り組みについて紹介します。

  • 株式会社セブン&アイ・ホールディングスの取り組み
  • 花王株式会社
  • 味の素グループ

株式会社セブン&アイ・ホールディングスの取り組み

株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を定めて2050年までに脱炭素社会を目指すとしています。2030年までの目標として、グループ店舗排出量30%の削減、2050年には排出量80%の削減を達成するとしています。

参考:株式会社セブン&アイHLDGS. セブン&アイグループの環境宣言

花王株式会社

花王株式会社では、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、2040年にカーボンゼロ、2050年にはカーボンネガティブを目標に掲げています。2021年にはすでに、国内すべてのロジスティクス拠点等で使用電力の100%を再生エネルギーで賄っています。

参考:Kao 発表資料2022年04月26日

NIKE

NIKEはまず直近の目標として、2025年までに環境に優しい素材を50%に増やすことで温室効果ガスの排出量を0.5Mトン削減する目標を掲げています。

また、廃棄物を転用し80%の廃棄物が自社製品もしくはその他製品に再利用されるとしています。さらに、染色と仕上げにおいては真水の量を1kgあたり25%削減するとしています。

参考:NIKE Sustainability

カーボンニュートラルに対する各国の取り組み

カーボンニュートラルの世界各国の取り組みについて解説します。

  • 日本
  • 米国
  • EU
  • 英国
  • 中国
  • 韓国

日本

日本では経済と環境の好循環を成長戦略の柱に掲げグリーン社会の実現に向けて最大限注力するとしています。

米国

米国では2020年7月のバイデン氏の公約により公平なクリーンエネルギーの未来を創造し近代的かつ接続可能なインフラの構築を実現するとしています。また気候への配慮を外交政策と国家安全保障の不可欠の要素に位置づけしました。

EU

EUでは欧州グリーンディールを柱とした新しい成長戦略を実践中です。2050年までに気候中立を実現するとし、それに向けて雇用を創出しながら排出量の削減を促進しています。

英国

英国は風力や水素、炭素回収などのクリーンテクノロジーに積極的に投資することで世界を主導し、新しいグリーン産業革命に導くとしています。

中国

中国では先進国より10年遅い2060年までにカーボンニュートラルを実現するとし、経済社会全体の全面的グリーンモデルチェンジやグリーン低炭素発展の推進を加速する目標を掲げています。

韓国

韓国ではカーボンニュートラル戦略を将来の成長の推進力と位置づけ、GNG排出量(温室効果ガス排出量)の削減を行っていくとしています。

参考:経済産業省 資源エネルギー庁 「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)

まとめ

カーボンニュートラルはきたる2050年に向けて実現させるべく官民一体となって加速させているプロジェクトです。また同じく世界各国も同様の取り組みを推し進めており、今後はさらなる温室効果ガスの削減が望まれます。

再生可能エネルギーは簡単には実現しませんが、実現する取り組みを積極的に行うことで、わずかばかりでも次世代を担う企業としての責務を果たせると言えます。

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カーボンニュートラルとは? 脱炭素や低炭素の違いをわかりやすく解説

カーボンニュートラルとは? 脱炭素や低炭素の違いをわかりやすく解説

ニュースなどでたまに耳にすることがある「カーボンニュートラル」。現在、世界各国がこのカーボンニュートラル実現に向けて取り組みを加速させています。地球温暖化が進む昨今において、カーボンニュートラルは世界中で取り組むべき共通の課題となっています。

カーボンニュートラルとはどのようなものか、本記事では詳しく解説するとともにメリットやデメリット、カーボンニュートラルに潜むリスクなどについて解説します。

目次

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となる「温室効果ガス」の排出量と吸収量を均衡させ、全体としてゼロにすることを言います。

つまり大気中に拡散された二酸化炭素(CO2)やメタン、フロンガスといった温室効果ガスの排出量から、森林や植林による吸収量を差し引くことで実質ゼロにするという意味です。

樹木は、大気中の二酸化炭素などを吸収する働きがあるため、森林破壊を防止し植林活動を促進させることで、温室効果ガスの吸収量を増やせます。

カーボンニュートラルはなぜ必要なのか

カーボンニュートラルが必要な理由は、カーボンニュートラルを目指すことで地球温暖化を抑制できるからです。

2020年時点において、世界の平均気温は工業化以前の1850年から1900年頃と比較するとすでに1.1℃上昇しています。

出典:環境省 気象庁 世界の年平均気温偏差

温暖対策

このまま放っておくと気温上昇はさらに続くと予測されています。豪雨や猛暑などの気象災害が頻発するようになり、気候危機に陥ることが懸念されているのです。

すでに「気候変動」よりも緊急性の高い「気候危機」という言葉が用いられていることから、カーボンニュートラルを目指すことは急務と言えます。

カーボンニュートラルはSDGsへの取り組みの一環

カーボンニュートラルはいわゆる「SDGs」への取り組みの一環でもあります。主に、SDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」がカーボンニュートラルの施策に直結する取り組みとなります。

SDGs 目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成目標項目の中の一つに「再生可能エネルギーの割合を大きく増やす」というものがあります。いわゆるこれがCO2などの温室効果ガス削減の効果に繋がります。

また、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成目標項目の中に「気候変動への対応を国の政策や戦略に入れる」「気候変動が起きるスピードをゆるめたり影響を減らしたりする」といったものがあり、これも国が推進しているカーボンニュートラルへの施策に繋がります。

カーボンニュートラルと他の取り組みとの違いとは

以下ではカーボンニュートラルと似ている他の取り組みとの違いについて解説します。

  • カーボンニュートラルと低炭素・脱炭素社会の違いとは
  • カーボンニュートラルとカーボンオフセットの違いとは
  • カーボンニュートラルとカーボンゼロの違いとは

カーボンニュートラルと脱炭素社会の違いとは

カーボンニュートラルは地球温暖化の原因となる「温室効果ガス」の排出量と吸収量を均衡させ、全体としてゼロにすることを言います。この排出量をゼロにするべく森林破壊の防止、または植林活動の促進などを行います。

一方、脱炭素社会とはカーボンニュートラルを実現した社会のことを言います。温室効果ガスを実質ゼロにできた状態を「脱炭素」、脱炭素を実現した社会が「脱炭素社会」となります。つまり、カーボンニュートラルが「取り組み」である一方、脱炭素社会は「状態」を指しているという違いがあります。

低炭素社会とは

他方「低炭素社会」という言葉もあります。低炭素社会は温室効果ガスの排出量を削減できた社会のことを言います。

カーボンニュートラルによって温室効果ガスの排出量を実質ゼロにできた状態を「脱炭素社会」とする一方、ゼロにはなっていないが削減できた状態を「低炭素社会」としています。つまり脱炭素社会と低炭素社会の違いは以下のようになります。

脱炭素社会と低酸素社会

カーボンニュートラルとカーボンオフセットの違いとは

カーボンオフセットは温室効果ガスの削減や温室効果ガスの吸収量増加につながる活動に投資することで、温室効果ガスの排出量を埋め合わせる考え方です。

例えば、宅配業者がエンジン付きの車両を使用せず、自転車や台車を使用して業務を行うことで温室効果ガスの削減に貢献しています。そして削除努力で削除できない部分に関してはカーボンクレジットを購入して排出量を「相殺=オフセット」します。

つまり、カーボンニュートラルが温室効果ガスを実質ゼロにする取り組み全般を指す言葉である一方で、カーボンオフセットはカーボンニュートラルを実現するための一つの手段に過ぎない、という違いがあります。

カーボンニュートラルとカーボンゼロの違いとは

カーボンニュートラルもカーボンゼロも、温室効果ガスをゼロにするという点でほぼ意味は同じですが、微妙にニュアンスの違いがあります。カーボンゼロとは、正しくはネットゼロカーボンのことで、カーボンを「ネットゼロ=正味ゼロ」にする考え方になります。

一方、カーボンニュートラルは「ニュートラル=中立」にするというニュアンスがあります。つまり、ネットゼロは「温室効果ガスそのものを無くす」というニュアンスが強い一方で、カーボンニュートラルは「排出した温室効果ガスを相殺する」というニュアンスが強めとなります。

カーボンニュートラルがもたらす影響とは

以下ではカーボンニュートラルがもたらす影響について解説します。

  • カーボンニュートラルのメリットとは
  • カーボンニュートラルのデメリットとは
  • カーボンニュートラルのリスクや問題点とは

カーボンニュートラルのメリットとは

企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットとしては以下が挙げられます。

  • 自社の優位性を確立できる
  • 光熱費や燃料費の低減につながる
  • 知名度や認知度の向上が見込める
  • 従業員のモチベーションが上り人材獲得力も向上する
  • 好条件で資金が調達できる

自社の優位性を確立できる

自社が他社よりもいち早くカーボンニュートラルに取り組むことで、環境保護意識の高い企業というイメージを世間に与えることができます。

「他社よりも一歩進んでいる」「脱炭素経営に意識が高い」という良いイメージが持たれるようになり、SDGsなどの観点から他社イメージよりも自社イメージの優位性を確立できます。

光熱費や燃料費の低減につながる

カーボンニュートラルでは石油や石炭、天然ガスといった化石燃料ではなく、太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーの使用が求められます。

この再生可能エネルギーを利用することで、それまでかかっていた化石燃料のコストを削減できます。企業の業種によっては、半分近く光熱費や燃料費を削減できる場合もあります。

知名度や認知度の向上が見込める

カーボンニュートラルにいち早く取り組む企業として、市場における知名度や認知度の向上が見込めるようになります。引いてはメディアなどに取り上げられることもあり、いわゆる「企業ブランディング」としての効果もあります。

従業員のモチベーションがあがり人材獲得力も向上する

カーボンニュートラルに取り組む企業として、市場での知名度や認知度が向上することにより従業員にもエンゲージメントが生まれ、モチベーションもあがるようになります。

従業員のモチベーションが高い企業は生産性や積極性といった要素の向上にもつながり、さらなる企業の発展に貢献します。魅力的な企業は優秀な人材の目にも止まり、人材獲得力の向上も期待できるようになります。

好条件で資金が調達できる

一部金融機関において、カーボンニュートラルやSDGsに取り組んでいる企業に対して、従来の事業融資基準を暖和させて融資を行っているところもあります。こういった金融機関を利用して資金調達を行うことにより、他社よりも有利な条件で資金調達ができます。

カーボンニュートラルのデメリットとは

企業がカーボンニュートラルに取り組むデメリットとしては以下が挙げられます。

  • 初期投資が必要
  • 火力発電から脱却する必要がある

初期投資が必要

カーボンニュートラルに取り組むためには多額の初期投資が必要となります。代表的な再生可能エネルギーには「太陽光発電」「風力発電」「水力発電」「地熱発電」がありますが、いずれも発電所の建設コストが掛かります。

また、太陽光やある程度の強風が得られる広い平地も必要となります。さらに土地の整備費用や電力送電網の構築、災害対策と維持などにもコストが掛かります。

火力発電から脱却する必要がある

化石燃料を使用した従来の火力発電は、大量の二酸化炭素を排出しています。そのため、カーボンニュートラルに取り組むためにはまず火力発電から脱却する必要があります。

現在日本国内において、メインで電力を賄っているのが火力発電であり、2022年の時点では火力発電の割合が73%を占めています。

参考:経済産業省 資源エネルギー庁 日本国内における発電の組み合わせと割合

発電の組み合わせの目標

こういった事情から、現状火力発電に頼らず電力を安定供給することが難しい状況となっており、この問題を解決することが一つの課題となっています。

カーボンニュートラルのリスクや問題点とは

カーボンニュートラルのリスクとして挙げられるのが、環境問題悪化を加速させてしまう可能性があることです。カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロの状態にすることです。

つまり差し引きゼロにできれば「どれだけ温室効果ガスを排出してもよい」という発想につながります。温室効果ガスの主な吸収源が森林や植林ですが、例えばこれらの森林や植林が災害などで急激に減少することも考えられます。

そういったときに、吸収しきれなかった温室効果ガスが濃度の高い状態で地球上に拡散されていく可能性もあります。気候危機を食い止めるためには、温室効果ガスの排出量をいかに抑制するかが鍵となるため、カーボンニュートラルにおいてはこういった差し引きゼロの考え方にリスクがあると言えます。

再生可能エネルギーの生産にもリスクがある

カーボンニュートラルは再生可能エネルギーを利用しますが、この再生可能エネルギーが本当に環境に良い影響を与えるのか、といった異論は以前より唱えられています。

例えば、風力発電では火力発電や原子力発電と同等の電力を生産するために、火力発電や原子力発電よりもはるかに広い敷地面積を必要とするため生態系への影響も懸念されます。

実際にドイツでは1400基の風車を建設する予定がわずか35基となっています。さらに騒音や景観を損ねるといった環境問題の懸念もあります。

カーボンニュートラルに対する国や企業の取り組みについて

以下ではカーボンニュートラルに対する国や企業の取り組みについて解説しました。

  • カーボンニュートラルに対する国の取り組み
  • カーボンニュートラルに対する企業の取り組み
  • カーボンニュートラルに対する各国の取り組み

カーボンニュートラルに対する国の取り組み

政府は2050年までのカーボンニュートラル実現に向けて数々の施策を打ち出しています。

例えば、脱炭素事業を営む経営者に対して新たな出資制度を設けるべく脱炭素化支援機構を設立しました。

また民間企業が高い目標を掲げてカーボンニュートラルに挑戦できる環境づくりや支援制度の確立、脱炭素に取り組む地方公共団体への積極的支援など、国を挙げて取り組みを行っています。

カーボンニュートラルに対する企業の取り組み

以下にカーボンニュートラルに対する企業の取り組みについて紹介します。

  • 株式会社セブン&アイ・ホールディングスの取り組み
  • 花王株式会社
  • 味の素グループ

株式会社セブン&アイ・ホールディングスの取り組み

株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を定めて2050年までに脱炭素社会を目指すとしています。2030年までの目標として、グループ店舗排出量30%の削減、2050年には排出量80%の削減を達成するとしています。

参考:株式会社セブン&アイHLDGS. セブン&アイグループの環境宣言

花王株式会社

花王株式会社では、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、2040年にカーボンゼロ、2050年にはカーボンネガティブを目標に掲げています。2021年にはすでに、国内すべてのロジスティクス拠点等で使用電力の100%を再生エネルギーで賄っています。

参考:Kao 発表資料2022年04月26日

NIKE

NIKEはまず直近の目標として、2025年までに環境に優しい素材を50%に増やすことで温室効果ガスの排出量を0.5Mトン削減する目標を掲げています。

また、廃棄物を転用し80%の廃棄物が自社製品もしくはその他製品に再利用されるとしています。さらに、染色と仕上げにおいては真水の量を1kgあたり25%削減するとしています。

参考:NIKE Sustainability

カーボンニュートラルに対する各国の取り組み

カーボンニュートラルの世界各国の取り組みについて解説します。

  • 日本
  • 米国
  • EU
  • 英国
  • 中国
  • 韓国

日本

日本では経済と環境の好循環を成長戦略の柱に掲げグリーン社会の実現に向けて最大限注力するとしています。

米国

米国では2020年7月のバイデン氏の公約により公平なクリーンエネルギーの未来を創造し近代的かつ接続可能なインフラの構築を実現するとしています。また気候への配慮を外交政策と国家安全保障の不可欠の要素に位置づけしました。

EU

EUでは欧州グリーンディールを柱とした新しい成長戦略を実践中です。2050年までに気候中立を実現するとし、それに向けて雇用を創出しながら排出量の削減を促進しています。

英国

英国は風力や水素、炭素回収などのクリーンテクノロジーに積極的に投資することで世界を主導し、新しいグリーン産業革命に導くとしています。

中国

中国では先進国より10年遅い2060年までにカーボンニュートラルを実現するとし、経済社会全体の全面的グリーンモデルチェンジやグリーン低炭素発展の推進を加速する目標を掲げています。

韓国

韓国ではカーボンニュートラル戦略を将来の成長の推進力と位置づけ、GNG排出量(温室効果ガス排出量)の削減を行っていくとしています。

参考:経済産業省 資源エネルギー庁 「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)

まとめ

カーボンニュートラルはきたる2050年に向けて実現させるべく官民一体となって加速させているプロジェクトです。また同じく世界各国も同様の取り組みを推し進めており、今後はさらなる温室効果ガスの削減が望まれます。

再生可能エネルギーは簡単には実現しませんが、実現する取り組みを積極的に行うことで、わずかばかりでも次世代を担う企業としての責務を果たせると言えます。

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